以下の内容は、「日本語DTP組版における縦組みと横組みの関係」について、僕の学生時代の先輩である
A氏(やはり編集者)とやり取りしたメールをまとめたものです。
ちなみに、本文中の川崎ってのは僕(管理人)です。
川崎 雑誌といえば、WIRED Japanの今月号は怒り心頭。買って、手にとったときに何か違和感があると思ったら、何と右開き(つまり縦組み)。それはそれで実験精神は評価するが、本文の組み方はしっちゃかめっちゃか。見開き横組みページだけは左ページから読ませるなんて愚かもいいところ。
ついでに立ち読みしたDESIGN-PLEXも、読みにくいったらありゃしない(買ってから文句言いましょう...)。縦組みのコンピュータ雑誌だったら、ASCIIを見習ってほしい。週刊アスキー(EYE-COMのリニューアル)、MacPeopleも、見事に縦組みしてくれてる。
(ここまでがホームページ掲載文)
A氏 そうかな。そうは思わないけど・・・
「一般人向け、初心者向け」と「そうでないもの」はデザイン、レイアウトを変えていく必要があると思います。
読みにくさも1つのデザインですから。
もっとめちゃくちゃ読みにくい本だって、コンセプトによっては成立するはずです。
DESIGN-PLEXやWIREDでは、毎号、その辺のDTPでのトライ&エラーを敢えてしているのだと思いますけど・・・
川崎 うーん、僕は単に縦組み(右開き)の本の中に、左ページから読ませるコーナーがあると気分的に車酔いのような気分になってしまうんですよ。
これはもう、生理的なものなんですよね。ですから、そういう本を見ると、文句を言いたくなってくるんです。
「読みにくさも1つのデザイン」とおっしゃいますが、そうですかねえ...成立するかもしれないけど、読者が減るだけではないかと思うんですけど。
A氏 その通り。
でも、デザイナー向けの雑誌がいったい何部売れていると思います?
2万部ですよ、たったの。おまけに、増えたとしても5万部がいいところでしょう。
いっぽうの週刊アスキーは20万部以上を目指しているわけだし、MacPeopleだって、目標は10万部以上でしょう。
川崎 えっ、週刊アスキーは20万部以上売れないような気が...。
だって、ただのパソコンおたく向け雑誌EYE-COMと中身一緒ですから。
それはそうと、確かにマス向け雑誌と、ターゲットの明確な雑誌では造りを変えるべきなのでしょうね。
DESIGN-PLEXは正直いってちゃんと読んだことがないんですけど、WIREDはデザインに溺れてるような気がします。何というか、パソコン利用者のためのサブカルチャー雑誌というコンセプトからすれば、ああいうデザインでもいいんでしょうけど、そんなんに手間暇かけるんなら、もっとおもろい記事のせろよって文句言いたくなります。
あ、縦組みと横組みの話だったですが、
僕は英文表記や表が多く出てくるパソコン系の雑誌だったら、やっぱり横組み。ポリシーを持って縦組みにするなら、そういうイレギュラーなデザインのページは入れない、って方がいいな。
A氏 これは今、日本で雑誌を作る場合に、一番悩む部分です。
これが米国なら何も悩む必要はありません。
文字はアルファベットしかありません。
それ以外の文字(例えば漢字を扱うことがあったとしても)は全て「画像」です。
いっぽう、日本語はもともと外来語(漢字もそうですね)もどんどん取り入れてきた言語ですから、今も外来語をどんどん取り入れています。
1970年代まではそれでも外来語は「カタカナ」で処理できていたので、「本も雑誌も基本は縦書き」で大丈夫だったのです。
でも、1980年代からそれだけでは処理できなくなってきました。
特にコンピュータに関連する雑誌/書籍では、圧倒的に横書きのほうが見やすいし、デザインも簡単です。
おまけに、DTP環境が縦書きを許さない状況(フォント、文字詰め)にありました。
だから、欧文が入る場合は、川崎さんがいうように「横書き」にしたほうが、見やすいのはみんなわかっているわけ。
で、それでいいんでしょうか?
縦書きの読み易さを安易に捨て去ってしまっていいんでしょうか?
人間の目は横に並んで付いているため、横に字を追っていくとすごく疲れます。
このため、横に長い行は段組みをして、1行1行は短くしているわけです。
日本語は縦書きも、横書きも可能、という非常に優れた言語であり、特に長い文章については、縦書きで読みやすいという特徴があります。
川崎 「人間の目は横に並んで付いているため...」って考え方は初めて知りました。なるほど、そう言われてみれば...横組みの小説は確かに読みたくはないですね。
でも、いま意識して横組みページを読んでみたんだけど、斜め読みしやすいって利点がありますね。上から下につらつらって目を落とすだけで、読むべき情報が見つけやすいです。
じっくり読ませるものは縦書き、マニュアルやパンフレットのように短時間で読みたいものは横書きって使い分けはどうです?
A氏 これは常識ですよね。
たいていそうなっていますよね。
日本語は縦書きの方が読みやすいのですから、縦書きをベースに、欧文や横書きをどう組み込んでいくのか、というのがこれから編集をしていく上で大切なポイントになってくると思います。
新聞などでWebのURLを表記するのに、以前は全角のアルファベットでした。
http://www.○○○.co.jp/
しかもこれが縦書きで入っていました。
読みにくいこと、甚だしかった上に、ブラウザに全角で打ち込んでつながらないという人もいたようです。
今は、半角で入っている新聞が増えました。
読みにくさはほとんど変わりませんが、でも実際にブラウザに全角で打ち込む人の数は減ったのではないでしょうか?
今後、これまで縦書きで不便を感じなかった出版物でも、欧文が増えてくることは容易に想像できます。
安易に、欧文が入るなら横書きにするのではなく、いろいろなレイアウトにチャレンジすることを、出版/印刷界自体がもっと真剣に考えていく必要があります。
川崎 まあ、僕としては組むのが簡単な「横」で作りたいなあというのが、正直なところでしょうか。こういう安易な考え方は「志が低い」のでしょうが。
ところで、話は変わりますが、インターネットのWebでも、さかんにデザイン論議がされていますが、僕はあんなん、どうでもいいやっていう考え方なんですよね。
日本人だから縦書きのホームページでなきゃ嫌っていう人はほとんどいないだろうし、たいてい僕が面白いと思うホームページってのはデザインは簡素で、テキストが優秀な気がします。
インターネットでリアルオーディオだ、ショックウェーブだって一時期プラグイン戦争みたいな状況でしたが、やはりテキストという優れた情報伝達手段には勝てなかったな、と思います。
A氏 そりゃ、そうです。
ところで、ボイジャーのエキスパンドブックを知っていますか?
エキスパンドブックのReaderを使うと、横書きのWebテキストをすぐに縦書きにして読めるのです。
http://www.voyager.co.jp/neb/index.html
Netscapeのプレファレンス、アプリケーションのView Sourceで、エキスパンドブックの「Book Buddy」を指定すると、あとは、読みたいページにいって、ViewメニューのDocument Sourceを選ぶと、エキスパンドブックが立ち上がって、テキストが縦書きで読めます。
川崎 僕は、Webでも出版物でも、縦書きだ横書きだっていうのはどっちでも良くて、とどのつまり、優秀なテキストさえあればデザインはそれを邪魔しなければいいやっていうのが僕の考え方なんです。(こんなことデザイナーに話したら怒られそうだけど)
ビジュアルに凝るのは、コマーシャル系の出版物(広告、パンフ、リーフレット)だけでいいのではないかなあ。
A氏 雑誌は「コマーシャル系」なんですよ。
なにしろ広告が入らなければ、ほとんどの雑誌は廃刊です。
そういう意味で、雑誌は読者だけでなく、クライアントもターゲットにしたものなんです。
川崎さんのお考えもわかりますけどね。
でも、よく考えてね、同じテキストでも新潮文庫と講談社文庫と角川文庫では、書体が違ったり、紙質が違ったりしていますが、川崎さんはそれを選んだり(好き嫌いがあったり)しませんか?
ほらね。
テキストだけでも、いろいろあるでしょう? (とりあえず了)
結論は出たような、出てないような...
掲載を快く承諾してくださったA氏に感謝いたします(そのうち麻雀しましょう)。